………ンボロー、アッテンボロー?



ハッと目を開けたとたん、それまでずっと息を詰めていたかのように、アッテンボローは大きく息を吐いた。
自分が上げた声の所為か、それとも遠くから呼ばれる声に導かれたのか…。
まだ心臓がドキドキしている。

「アッテンボロー?目が覚めたかい?」

柔らかな声のした方へ視線を動かす。
ヤンの姿をその目で捉えながらも思考は未だ追いつかない。
夢の余韻に絡めとられたまま、アッテンボローはようやく掠れた声で呟いた。

「先輩…………大丈夫?」
「はあ? おまえ……それはこっちのセリフだよ。こんなところで寝てると風邪ひくぞ」
「へ? あれ……? 夢を見てた…のかな? 俺、何か言いましたか? 」
「いや、別に何も。どんな夢だったんだい?」
「その……よく覚えて、ないんです。ただ、軍服を着た先輩と、俺がいて……」
「へえ〜。そいつは近い将来現実になるだろうけどね。このまま行けば」
「そう……ですね」
「それより…本当に大丈夫かい?起きられるなら行こう。きっとラップが待ちくたびれているよ?」
「あっ、そうでした!」

差し出されたヤンの手を取りながら急いで起き上がろうとした瞬間、ひらひらと舞い降りた花びらがアッテンボローの鼻先にぺたりと貼り付いて………。
辺りに響き渡るような派手なクシャミだった。

「ぷっ!くくっ……はははははは………!!」
「せ、先輩!?そんなに笑わなくても……」

腹を抱え目尻に涙を浮べながら笑い転げるヤンを、アッテンボローは拗ねた目で軽く睨む。

「ごめんごめん。花見をしながら昼寝なんて、せっかく風流なことをしてたのにな」
「どうせ、似合わないって言いたいんでしょ!?」
「いや、団子のほうが似合うと思っただけさ」
「酷いなあ……。ご期待に応えて、もう今夜は思いっきり食べて飲みますよ!」
「主賓は私なんだろ?それを忘れないように!」
「了解です、ヤン閣下!」

おどけて敬礼をしながらアッテンボローが立ち上がる。その背中を軽く手で払ってやると、ヤンは促すように後輩の肩をポンと叩いてから歩き始めた。
楽しそうなヤンの横顔を眩しい想いで眺めながら、アッテンボローは思い返していた。
あの不思議な夢は何だったのだろう、と。
本当は、内容を覚えていたのだけれど―――先輩にはとても言えなかった。
祖母の話に出てきた、人の知恵の及ばない不思議なことが起こったのだろうか?

ヤンに気付かれないようにそっと振り返る。
その視線の先には、変わらぬ美しい姿で静かに佇む、桜の樹があった。



End
2005/3/31 脱稿
2005/4/5  UP

キリバン100&200打をダブルで踏んでくださったクリスティーヌ秋子さまから、ちょうど御殿で開催される『ヤンヤン桜祭り』に合わせて『アッテンとヤンで桜にちなんだもの』というお題をいただきまして、書かせていただいたものです。
お世話になりっぱなしなのに、こんな拙い作品ひとつで兼用させていただいたようで、本当に申し訳ありません!
秋子さま、快くお受け取りくださいまして、ありがとうございました!!


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