6月の招待状(同盟編)


「ユリアン、手紙が来てたわよ。デスクの上に置いておいた」
「ああ。ありがとう、カリン」
 それは二人が同じ屋根の下で、一つの家庭を持つようになってから、何度となく繰り返されてきた会話だった。その日もユリアンは、何気なくデスクの上に置かれた手紙を手にとった。
「フレデリカさん…から? そうか、今年ももう6月がやって来るのか」
 ユリアンが独りつぶやきながら、その手紙を開けると、彼の予想通りの文章がそこに踊っていた。


お世話になった皆様へ

 今年も6月がやって来ます。
 そして、6月10日がやって来ます。
 一年に一度だけ、今年も私の惚気を聞いて下さいますか。
 そしてたくさんの愛しき人々の思い出を一緒に語りませんか。

フレデリカ・グリーンヒル・ヤン


 それは「戦後」すぐから始まった恒例の行事だった。
 ヤン・ウェンリーにゆかりのあったイゼルローン共和政府の主要メンバーが集まり、アルコールの入ったグラスを傾けつつ、故人となった人々の思い出を語る非公式な集まり。だが、イゼルローン共和政府の主要メンバーが集まるからして、それはシンミリとした会になるわけがなく、限りなく「悪口」に近い毒舌の応酬となるのが常だった。もっとも、それこそが、生き残った彼らがいつまでも彼らである証。フレデリカが敢えて、自らの結婚記念日たる6月10日にそれを設定したのも、実に彼女らしい考えがあってのことである。未亡人には、結婚記念日を一緒に祝う相手がいない。だから、みんなで盛大に祝って欲しいと。どこまでいっても「祭り」好きな彼ら彼女らの生き様なのであった。

「カリン、今年も行くよ」
「フレデリカさんの例の会ね」
「うん」
 カリンは、おおよそ手紙の内容を察していたらしい。
「今年は、誰が一番酔っ払うのかな」
 くすりと笑い合う二人のそれは、平和な夫婦の間柄そのものだった。

 毎年6月になれば、思い出す。
 たくさんのこと、たくさんの人。
 ただひたすらに、感謝を込めて…。



【銀英伝物書きonly同盟】主宰の雪姉さまより、企画参加お礼として頂戴したSSです。
涙ではなく笑いと共に思い出語りをする6月。イレギュラーズの面々にはとても似合うと思いました。フレデリカの惚気話ってどんな内容なんでしょうね(^^)聞いてみたいような怖いような(笑)
雪姉さま、心がほんわかする素敵なSSをありがとうございました!


Treasureメニューへ戻る